僕は料理を食べて感動したことがある。
その初めての体験は1987年のことだ。三田にあるレストラン「コート・ドール」。
斉須政雄シェフの料理を食べて。激しく心揺さぶられた。「料理で人を感動させることができるんだ」、知らなかった。美味しいだけでは無かった。衝撃だった。
翌年の1988年に僕は料理の修業のためにフランスへ渡った。
そして斉須シェフが一緒に仕事をしていたベルナール・パコォ・シェフの店、パリ4区ヴォージュ広場にある3ッ星レストラン「L'Ambroisie」で食事をする機会を得た。また衝撃を受けた。何度も通った。ほとんどお金なんか持っていなかった僕にマダム・パコォはとても優しかった。料理のポーションを調節してくれて魚も肉も食べさせてくれたりした。そして帰り際には次回の予約をして帰った。
帰国してから再び「コート・ドール」へ。いったい何回通っただろう。
僕は斉須シェフの料理を「模写」した。同じようにできるはずもないが尊敬と敬意の念を込めて。それがとても勉強になった。僕は斉須シェフのもとで修業したこはないが、斉須シェフの料理が自分を育ててくれたと思っている。
僕は1993年、恵比寿に「オ・コション・ローズ」を開店させた。経営は順調だったが数年がたった時、とても大きな壁にぶち当った。自分が向かうべき方向が解らなくなって、立ちすくんでいた。
ランチの営業を一週間中止して一週間連続で「コート・ドール」へ通った。
初めて「コート・ドール」へ行って以来、「Mousse de poivrons rouge」や「Queue de boeuf braisée」は僕の人生の道しるべとなった。今でも何かに迷ったら作ってみる。
斉須政雄シェフ、本当にありがとうございます。