2013年12月13日金曜日

Classique Cuisine Française

「フランス古典料理についての一考察」

<<フランス古典料理とはどの時代をさすか?>>

☆☆☆

料理の「古典」といった場合、どのような視点で観るのかにより指し示す時期や期間に差異がある。そこで「古典」を更に詳細に時代区分していきます。あくまで僕の私見。

今日の時点ではボキューズの「スズキのパイ包み焼き」、「トリュフのスープ」、エーベルランの「カエルのムース」、トロワグロの「サーモンのソース・オゼイユ」などは古典ではありません。しかしヌーヴェル・キュイジーヌ初頭のこれらの料理を古典的と捉えて再現している料理人も出てきていて、「クラシック」と表現している場合もあるが、それは世代の違いによるとらえ方の違いだ。

勿論いつかは「クラシック」になるわけだが。

フェラン・アドリア以降、その時代(ヌーヴェル・キュイジーヌ初頭)が急速に「古めかしく」なったとは言える。

まず整理すると、

【古典古代】

 紀元前のアピシウスの料理書「デ・レ・コクイナリア」

【古典中世】

 中世末期のタイユヴァン「ル・ヴィアンディエ」

【古典ルネッサンス】

 カトリーヌ・ド・メディシスによりもたらされたイタリア料理の影響、フォークの登場

 17世紀のグランド・キュイジーヌ、ラ・ヴァレンヌ「フランスの料理人」

 18世紀、宮廷料理、ヴァンサン・ラ・シャペル「現代の料理人」他、ムノンなど

【古典近世】

 フランス革命、レストランの誕生、アントワーヌ・ヴォーヴィリエ「料理人の技術」

 19世紀、ロシア式サーヴィスそしてマリー・アントワーヌ・カレーム「19世紀フランス料理芸術」

 エドワール・ニニョン、プロスペール・モンタニエ、ジュール・グーフェ、その他多数。

 エスコフィエ君臨、「ル・ギッド・キュリネール」

【古典近代(ガストロノミー・クラシック)】

 3大料理長、フェルナン・ポワン、アレクサンドル・デュメーヌ、アンドレ・ピック

【新フランス料理(ヌーヴェル・キュイジーヌ・フランセーズ)】

 レイモン・オリヴェ

 ポワンの弟子たち、ポール・ボキューズ、アラン・シャペル、ミッシェル・ゲラール、ジャン・トロワグロ、ルイ・ウーティエなど現代の大料理長時代

【現代フランス料理(キュイジーヌ・モデルヌ・フランセーズ)】

 ジョエル・ロブション、アラン・デュカス、ギー・サヴォア、ベルナール・ロワゾー、その他多数。

【近年フランス料理】

 <フランス>
 ミッシェル・ブラス、ピエール・ガニェール、その他多数。

 <グローバル>
 フェラン・アドリア、トーマス・ケラー。

【今日のフランス料理(キュイジーヌ・ドージュル・ドュイ)】

 <フランス>
 パスカル・バルボ、ヤニック・アレノ、アンヌ・ソフィー・ピック、フランソワ・ピエージュ、その他多数。

 <グローバル>
 ヘストン・ブルメンタール、レネ・レゼッピ、アンドニ・ルイス・アドゥリュス、グラント・アケッツ
・・・。

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本当に広くとらえれば古典古代から古典近代まで。

現在の厨房での現実的再現性があるのは、
19世紀初頭からエスコフィエへ伝わった古典、エスコフィエの継承した古典をさらに近代化させた3大料理長まで。
3大料理長の時代は本当の意味の古典とはやや乖離がある。

しかしながら、現在の調理場で再現性がある「古典」ととらえているのはエスコフィエからポワンまで、この辺りの「ガストロノミー・クラシック」ではないか?

ボキューズ以降はヌーヴェル・キュイジーヌの時代。

※料理人、料理書などは上げようと思えばキリがないのでここではとりあえず簡単ヴァージョンで。

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<<古典が自分に与える影響とは?>>

☆☆☆

「古典」と料理の世界でいう場合、「ガストロノミーの古典」をさす。「郷土」、「地方」料理とはやや分けて考えた方が良いかも知れない。100年前から今日でも作り続けられ、食べ続けられている「郷土」料理を「古典」とは言わないからだ。しかし双方、受け継がれてきた結果、伝統としての存在感を兼ね備える。

ガストロノミーの「古典」も多くの料理が時代の変革の中、淘汰され姿を消してきた。レストランのカテゴリーやあり方が人々の生活や習慣の中で多様化した結果、役割を終えるものがあるから。その中で今なお輝きを持ち続ける「古典」にはいったいどんな力があるのだろうか。

近年、料理人はその技術に化学的根拠を求め、緻密な仕事をするようになった。そしてデザインを重要視する傾向はまだまだ続きそうだ。フランス、スペイン、イタリア、そして北欧、イギリス、アメリカと最先端と言われるレストランになるほど、デザインだけを見ていたら国籍の判別が難しい。勿論ルセットを見れば随所に土地や人の感性が盛り込まれているのだけれど。良い意味でボーダ・レスになり情報、技術、人材の共有化が進んだ半面、傾向を真似しただけのだ駄作が世に蔓延した。そういう時には逆の方向に揺れるベクトルが働きバランスをとろうとするものだ。いつも進むべき方向の修正を示唆してくれる羅針盤としての役割が「古典」なのだ。

「古典」は再現ではない。「古典」は出発点としての根拠を指示している道しるべ。僕たちは今、「古典」が進む「未来」への通過点にいるにすぎない。

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<<古典は再現できるのか?>>

☆☆☆

古典も年代の度合い次第。18世紀のルセットをそのまま再現することに意味はあると思うがそれは料理史研究に近い。
街場のレストランで本当の古典料理は再現できない。通常のお皿に盛り付けられた状態で表現するなら極度のアレンジが必要。
レストランの提供ベースで考える場合、まずは解析して「今日、食べられる料理」「お客様に提供できる料理」にするための設計図を描く。

エスコフィエ以降で比較的再現性が高いものでも「まったくそのまま」ということはない。提供ベースでは不可能。

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<<古典的表現の注意点>>

☆☆☆

例えば、音楽におけるクラシックのように、料理の古典を「今日通用する形」で表現する。音楽に楽譜があるように料理にはルセットがある。違うのは音楽は世界的な認識のもと、作者と楽譜、そして奏者があるのだから間違いはない。

料理には作者や「歴史的フィルタの通過過程」がはっきりしていない作品もあり、原作からかけ離れた解釈や表現がなされているのにも関わらず、「共通の認識がある料理名」がつけれられてしまっていることがある。これは問題だ。

料理と比べればお菓子の世界は少し違う。「古典的アントルメ」は作者はともかくとしても名前とヴィジュアルと大筋の構成が決まっているので相対的比較論が成りたちやすいからだ。古典的定番のお菓子を比較することでそれぞれの作り手の解釈や主張を受け取りやすい分野といえる。

古典をいったん分解して自分のフィルターを通して再構築、という言葉をここ十数年良く耳にしたけれど、全く違う新しい自分の形を言いたいのであればカルトの書き方にもより一層の工夫と説明が必要なのではないだろうか。言葉と料理をもっと融合させるべきなのだと思う。

「共通の認識がある料理名」がある料理は実際に提供されたときに、カルトの文字情報から連想されるイメージを裏切るものであってはならない。ここが重要だと思う。

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<<古典料理書>>

☆☆☆

1.

「Le Guide Culinaire」 par Georges Auguste Escoffier 1921

A. Escoffierの原書「Le Guide Culinaire」の初版は1902年Parisで出版された。その後、2版1907年、3版1912年、最後の改訂4版1921年となり、復刻版、初版が「Editions Flammarion」から1948年に、その後現在に至るまで再刷を重ねている。

邦訳は1969年11月1日に柴田書店より「エスコフィエ フランス料理」として出版された。B5正・上製、総ページ数1496頁。11月1日は原書の初版の序文にエスコフィエがサインしている日付と同じ。

「ル・ギッド・キュリネール」はエスコフィエを慕う多くの人物が協力している。エミール・フェテュ、フェレアス・ジルベール、アポロン・カイヤ、ジャン=バティスト・ルーブル、アルフレッド・シュザンヌ、シャルル・ディエトリッシュ、ヴィクトール・モラン。(参考文献 「エスコフィエ 偉大なる料理人の生涯 辻静雄 株式会社同朋舎出版」)

そしてエスコフェエ自身はユルバン・デュボワに相談などをしていたという。

いずれにしろ「ル・ギッド・キュリネール」は今のフランス料理のベースを築いた偉業に違いない。現代の料理とはだいぶ距離が離れて来た。しかし1度は触れなければならない料理人の登竜門であることに変わりはない。

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2.

「Le Cuisinier Moderne」 par Vincent La Chapelle 1742

Vincent La Chapelleは1690年、又は1703年~1745年。生年は諸説あり。「Le Cuisinier Moderne」は1733年にロンドンで「The Modern Cook」として3冊本で出版され、後にハーグで「Le Cuisinier Moderne」として4冊本で再版された。

後にカレームにより絶賛された書籍。それまでの料理を再検討し新たな一歩を踏み出そうと試みた貴重な文献だ。

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3.

「Art de la cuisine au XIX siecle」par Marie-Antoine Careme 1833

「19世紀のフランス料理芸術」1~3巻、1833(未完 後に弟子のプリュムレが4・5巻を著し完成)

いうまでもなく古典料理書の金字塔。

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4.

「Eloges de la cuisine francaise」 Paris, 1933 par Edouard Nignon

「フランス料理讃歌」。他にニニョンの著作では「Les plaisirs de la table」と「L'heptameron des gourmets, ou Les delices de la cuisine francaise」もおすすめ。

フランス料理の本質と料理人の心構えを説き、さらに1876年に実際に手がけた24回の美食を再現した料理書。

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5.

「Le Patissier Pittoresque」 Paris, 1828, 3th edition par Marie-Antoine Careme

「ル・パティシエ・ピトレスク」 (パリで1815年初版発行、カレームの死後だが第4刷が1842年)。

「Marie-Antoine Careme  マリ-アントワーヌ・カレーム」については世界中で研究資料が発表されている。日本語の文献も存在するので理解はしやすい。多くの著作を残したから研究しやすいのだと思う。

「Piece montee ピエス・モンテ」に情熱を注いだことで有名。ピエス・モンテとは料理や菓子の盛り付けを建築的立体感と装飾とで表現する(今からすれば)古典的技巧。そして当然、その時の最先端だったはずだ。

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6.

番外編・料理書解題

「Bibliographie Gastronomique」 par Georges Vicaire 1890

「料理・美食方、参考書目一覧 ジョルジュ・ヴィケール著 1890年」は前述した故辻静雄先生の「パリの料亭(レストラン)」の「きわめて個人的な参考書目解題」という項目の冒頭で紹介されている書籍だ。料理文献目録、解題だからこれを頼りに書籍を探すことになる。これがなければ何も始められない重要な一冊だ。1978年にジュネーブの「Slatkin Reprints」から出版された復刻版がある。

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<<継承したい古典料理>>

☆☆☆

Terrine (de foie gras).

Galantine, Ballottine, Dodine.

Pate et Terrine.

Canard au sang.

Consomme.

Ssalmis de becasse.

Tourte de gibier.

Supreme de volaille a la Kiev.

Lievre a la royale.

Perdreau en chartreuse.

Pate en croute.

Vol au vent sauce financiere.

Poularde en vessie sauce albufera.

Blanc-Manger.


Sole "Bonne-Femme".

Sole Duglere.

etc...

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<<継承したい技術>>

☆☆☆

古典料理はレストラン・ベースでは再現できない物も多数ある。
ホテルなどで時間、予算の双方をかけて「展示」ように制作すれば可能かも知れないが、
実際にテーブルで提供できるように再現できないピエス・モンテ(過度にアレンジした物は古典料理ではない)などは後世に残したいと思うが作り続けたり、再現し伝承してゆくことが殆ど不可能だ。

なので実際に作れるのは再現性の高いエスコフィエ以降、3大料理長までくらいが現実的なのだろうと思う。現在はその時代を「クラシック」と呼称している場合が多いのではないか。
僕はその部分を「ガストロノミー・クラシック」としてそれ以前の古典とは区別している。
繰り返しになるが本当の古典は再現性がとても低く、3代料理長時代の料理の再現を通称「クラシック」と呼称しているケースが多いと思われる。

「クラシック」の解釈はいつも時間とともに変化してゆく、と言うことだと思う。

カレームのピエス・モンテ

ピエス・モンテのアトレのでの表現

ニニョンのオート・キュイジーヌ

エスコフィエ、ル・ギッド・キュルネールの料理

ガストロノミーとしてのシャルキュトリー

フォア・グラやトリュフ、キャビア、伝統野菜品種など象徴的素材

伝統的ソース

宴の在り方(ベルサイユ宮殿などでの伝説的宴など)

調理方法(器具、道具の進化で失われてゆくものもあるので)

グラン・ヴァンへの意識(マリアージュ)

カトラリー

以上